運送会社の人不足が騒がれるようになって久しいですね。
先月18日には、首相官邸において、「第1回サービス業の生産性向上協議会」が開催され、ここでもこの話題が取り上げられています。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201506/18service.html
内容をかいつまんでみましょう。
「賃上げに伴う消費回復が期待される中、今後、労働力不足の克服がアベノミクスの最大の課題となってきています」(安倍総理)
この一文から続く本論では、サービス業の生産性向上が今後の景気回復には必要であると位置づけ、小売業、飲食業、宿泊業、介護業、運送業の五つの業界をピックアップし、「きめ細かく、官民を挙げて全面的に支援していく体制をスタート」すると宣言しています。
この例を挙げるまでもなく、昨今は一般メディアでも話題になる、運送会社の人不足。そして、この話題が挙がるたびに、その理由として挙げられるのが、労働環境が悪いこと、賃金が安いこと、そして長時間労働。
今回は、日本政府が公開している統計データを元に、この三点を検証します。
◇運送会社の給与は安いのか?
産業別の月間給与ランキングは、悪い順番(給料が安い順番)で以下のようになっています。
- 宿泊業、飲食サービス業
- サービス業(他に分類されないもの)
- 生活関連サービス業、娯楽業
- 運輸業、郵便業
- 複合サービス業
運輸業の平均月額給与は、31万9千円。
16の産業分類中、4番目に給与が安いという統計結果です。
◇運送会社は、長時間労働なのか?
本点に関しては、興味深い結果となりました。結論から申し上げます。
一日あたりの労働時間は、決して長くないのだけれども、週休二日制の導入が進んでいないことから、トータルの労働時間が長くなっている。
これが、運送業界が長時間労働と呼ばれるからくりです。
一日あたりの労働時間は、産業分類15のうちで、4番目に良い(短い)。
しかし、月間の総労働時間になると、建設業に続き、ワースト2。全産業平均:月間149.3時間に対して、運輸業、郵便業の2業界だけ、170時間を超えています。
原因としては、週休二日制導入率の低さと考えられます。運輸業、郵便業の週休二日制導入率は、宿泊業、飲食サービス業に続き、ワースト2となっています。
◇やはり、運送業界の労働環境は悪いのか...?
労働時間が長い、給与も安い...
この統計結果を見ると、やはり運送業界の労働環境は、けっして良いとは言いがたいのは確かなことです。
ただし、離職率の統計を診ると、やや違った側面が見えてきます。
高卒者、大卒者の3年離職率を診てみます。
双方とも、最も3年以内の離職率が高いのは、宿泊業、飲食サービス業。
大卒者で52%、高卒者で67%が、3年以内に離職するとの統計結果が出ています。
対して、運輸業、郵便業の離職率は、全29産業分類の内、高卒者がワースト16位、大卒者がワースト17位であり、全産業平均値からも大きく下回っていることからも、決して悪いとは言い切れません。
本当に労働環境が悪かったら、離職率はもっと高いはず。
「住めば都」的な快適さが、運送業界にはあるのでしょうか??
実は、運送業界は、メンタルヘルスの発症率が低い業界でもあります。
「メンタルヘルスに問題を抱えている社員がいる」かどうかを尋ねたアンケートの結果、56.7%の会社が、「いる」と答えました。
運送業界の回答は、50.4%。全18の産業分類のうち、ワースト13位であり、決して悪くはありません。ちなみに、ワースト1の医療、福祉業界は76.6%、ワースト2の情報通信業は73%の会社が、「いる」と答えています。
以下、筆者自身の経験です。
筆者は8年間務めたトラックドライバーを辞した後、飛び込み営業を行う典型的な営業会社に移りました。
営業目標のプレッシャーもキツかったですが、もっとも気持ちが堪えたのは、「ありがとう」とお客様から声をかけていただける機会が圧倒的に少なかったこと。同期に佐川急便さんから転職した人がいたのですが、彼はそのストレスに耐え切れず、辞めていきました。
確かに、運送業界、特にドライバーは厳しい仕事です。
しかし、社会を支える仕事であり、「ありがとう」という声を、日常的にかけていただける仕事でもあります。
離職率の低さ、メンタルヘルス発症率の低さは、「ありがとう」という声に支えられる、運送業界の好ましい一面にも起因するのではないでしょうか
一般メディアはもちろん、安倍総理にまで給料が安いだの長時間労働だのと言われてしまう運送業界。人不足の本質的な問題は、このようなネガティブイメージの拡散にも原因があります。
業界のイメージを良くする、ポジティブなイメージ発信が、今こそ物流業界全体に求められているものと考えます。
※出典と注記
本記事で取り上げた各種統計データは、以下リンク先にまとめてあります。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/15tFrXphr7U793qKcAIChEyvmSoFHO18U3vDZugT7z90/edit?usp=sharing
出典は、すべて政府統計データであり、その具体的な出典元URLは、上記資料中に記載しています。
また、統計方法、もしくはまとめ方法の違いから、データの母集団である産業分類の内容、数が異なっているケースがありますが、ご容赦ください。
記事中で取り上げている産業分類に関しては、以下をご参照ください。
http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/19-3-1.htm
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